経過報告

共同脚本 葛木英
「みんなでつくるオンライン脚本会議」に先立ち、古新監督の事務所にて、監督・プロデューサー陣・共同脚本による打ち合わせが行われました。
多くの場合、脚本打ち合わせは「何日までにこういうものを提出」といった段取りで進み、それをもとにディスカッションすることが多いのですが、今回は特にそのような指定もなく当日に。手ぶらも気まずいけれど、ヒアリング前に大きく逸れるのもよろしくないと考え、古新さんの元のプロットの骨格を抜き出したものをメモして臨みました。
個人的には、この作品でもっと大人の軸(親・支援者)を描きたいと思いつつ、私はあくまで古新監督の描きたい作品を形にする役割。お話していく中で、提案してみようと思って臨みました。というのも、古新さんやプロデューサー陣と共に支援する方々へ取材を重ねていく中で、どんどんと視野が広がり、「本当にこの映画で描きたいメッセージ」が膨らんでいく感覚があったからです。子どもの目線は大事にしつつ、多角的に描く必要性も感じました。
そんなそわそわした気持ちで臨んだ今回の打ち合わせ。意外な形で進んでいきました。付箋を使ったワークショップ形式で、古新監督のファシリテートにより進行していきます。
「この映画を観た人にどんなふうに感じてほしいか」「誰に届けたいか」などの質問が投げかけられ、時間内で付箋にアイディアを書いていく。普段はこちらからお伺いすることはあっても、脚本家に聞かれることのない質問です。
早く作るためにはトップダウンの指示があれば進みやすいのだろうと思います。ただ、みんなが考えるプロセスを経て言語化していけば、豊かさが生まれます。
そんな創作過程で進めるのは、23年程の脚本家人生で初めてのことでしたし、ひとりひとりを大切にしようという古新監督の姿勢を感じ、嬉しくなりました。何より楽しい。
『ギブマイ』は“ふたりの少女の物語”を中心にしたプロットがベース。それは変わらないと監督は断言します。取材先のNPOや支援団体の方々と対話する中で、映画が持つ社会的な意味や役割について、より深く考える機会になりました。
皆、それぞれの言葉で付箋に書き出してホワイトボードに貼っていきます。その一枚一枚が積み重なるうちに、物語の“輪郭”が少しずつ、けれど確かに変わっていく感触がありました。
そして、何より嬉しかったのは、監督やプロデューサー陣と自分の想いが一致していたことが、付箋という「かたち」となってそこに並んでいたことです。目に見える形で共有されることで、信頼と手応えが深まりました。
たとえば、「孤立し絶望の中にいる子どもに頑張れと伝える」のではなく、すでに社会で経験を積み、少し心に余白が生まれてきた大人たちが、「自分には何ができるか」とアンテナを立てたくなるような作品にしたい、という方向性が見えてきました。学校やNPO、そして私たち自身にも、そんな変化が起こる可能性を信じたくなるような感覚です。
子どもたちが変化する物語であると同時に、それをサポートし、受け止める側としての“大人の葛藤や変化”も、しっかり描く必要があるのではないか。そんな意見が多く出され、「大人が変わること」もこの映画のコアメッセージに含めていこう、という方向で合意が生まれました。
会議の最後には、古新監督が「皆の想いを持ち帰り、プロットを再構築してくる」と宣言。核はそのままに、新たな物語が生まれそうな、手応えのある時間となりました。
付箋を使って思いを可視化するこのワークは、私自身も大好きなプロセスです。実は、打ち合わせに向かう前、ディスカッションで使えるかもしれないと思って、そっとカバンに付箋を忍ばせていました。ホワイトボードに次々と貼られていく言葉たちを眺めながら、このプロジェクトに関われることの意味を、改めて強く感じた打ち合わせでした。
下記のイベントもお待ちしております。
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