三輪博志
「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」が日本で施行された場合、言論弾圧の危険性や市民に対する「オールドメディアプロパガンダ」を防ぐ観点での影響の検討
1. 本ガイドラインの概要と目的
本ガイドラインは、特定電気通信(主にインターネットプラットフォーム)を介した情報の流通が他人の権利(名誉、プライバシー、著作権など)を侵害する場合に、プラットフォーム事業者等が送信防止措置を講じる義務を明確化するものです。特に、以下のケースが対象とされています:
他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務(1-1節)
法令違反情報(詐欺、犯罪教唆、金融取引法違反など)の流通防止(2-1節)
目的は、インターネット上の権利侵害を抑制し、被害者の保護を図ることです。しかし、この目的が言論の自由や市民の情報アクセスにどのような影響を及ぼすかを検討する必要があります。
2. 言論弾圧の危険性
(1) 曖昧な基準による過剰な規制
本ガイドラインでは、「他人の権利を不当に侵害する情報」や「法令に違反する情報」が対象とされていますが、その判断基準が曖昧です。例えば:
名誉毀損(1-1-1): 「社会的評価を低下させる」かどうかは「一般読者の普通の注意と読み方」を基準に判断するとされていますが、この基準は主観的で、プラットフォーム事業者や裁判所の解釈次第で大きく異なり得ます。
プライバシー(1-1-3): 「一般人の感受性」を基準に「公開を欲しない情報」と定義されていますが、具体性が欠けており、個人の表現が意図せず規制対象となる可能性があります。
この曖昧さが、プラットフォーム事業者に過剰な自主規制を促し、言論の自由を制限するリスクを生みます。事業者が訴訟リスクを避けるため、グレーゾーンのコンテンツを積極的に削除する「予防的検閲」が起こり得ます。
(2) 権力による濫用の可能性
ガイドラインは「法令違反情報」として、詐欺や犯罪教唆だけでなく、「消費者取引における不当表示」や「金融商品取引法違反」なども対象に含んでいます(2-1-6, 2-1-5)。これらは政府や規制機関が定義するものであり、政権や特定の利益団体が「法令違反」を拡大解釈して反対意見を封じ込めるツールとして利用する危険があります。例えば:
政府批判を含む投稿が「公共の利害に関する事実」でないと判断され、名誉毀損として削除される。
市民運動の呼びかけが「犯罪教唆」とみなされ規制される。
日本では過去に、表現の自由が権力によって制限された歴史(例:戦前の治安維持法)があり、本ガイドラインが同様の役割を果たす可能性は否定できません。
(3) プラットフォームへの過度な責任転嫁
ガイドラインは、プラットフォーム事業者が「法令違反情報を認識しつつ放置した場合」に責任を負うとしています(2-2節)。これは、事業者に積極的な監視義務を課すもので、結果として、すべての投稿を事前にチェックする「監視社会」が生まれる恐れがあります。これにより、市民の自由な発言が萎縮し、言論弾圧に繋がる可能性があります。
3. オールドメディアプロパガンダを防ぐ市民への危険
(1) 市民メディアの抑圧
インターネットは、オールドメディア(新聞、テレビなど)が独占してきた情報発信の場を市民に開放しました。本ガイドラインが施行されると、以下のような危険が予想されます:
独立系ジャーナリストや市民記者の活動制限: 権利侵害や法令違反の基準が厳格に適用されれば、企業や政府の不正を告発する投稿が「名誉毀損」や「プライバシー侵害」として削除される可能性があります。
オールドメディアとの不均衡: オールドメディアは資金力や法務体制を持ち、訴訟リスクに耐えられますが、個人の市民メディアは同様の保護がなく、発信を控える傾向が強まるでしょう。
これにより、市民がオールドメディアのプロパガンダに対抗する手段が減少し、情報の一方向性が強化される恐れがあります。
(2) 情報の多様性低下
ガイドラインがプラットフォームに過剰な削除を促す場合、議論を呼ぶトピックや異端的な意見が排除され、情報環境が単一化するリスクがあります。オールドメディアは伝統的に「安全な」報道に終始しがちですが、インターネットは多様な視点を提供してきました。この多様性が失われると、市民はオールドメディアのフィルターを通した情報に依存せざるを得なくなり、プロパガンダへの対抗力が弱まります。
(3) 自己検閲の増大
市民が「権利侵害」や「法令違反」のリスクを恐れて発信を控えるようになると、自己検閲が常態化します。特に、
オールドメディアが報じない問題(例えば、マイノリティの権利や環境問題)を提起する個人が萎縮すれば、市民の知る権利が損なわれ、オールドメディアの影響力が相対的に増大します。 頑張って下さい